数ヶ月前、ケーブルテレビの日本映画専門チャンネルで竹野内豊主演の映画「冷静と情熱のあいだ」を何度も放映していた。
物語の内容は忘れたが、フィレンツェが舞台の恋愛もので主人公が相手との待ち合わせをしたのがフィレンツェの中心にある
ドゥオモのクーポラ(ドーム状の屋根)の上のテラスだった。この旅行をする事に決めたとき是非この待ち合わせ場所に行こうと
思った。それは決して映画の内容に惹かれたのではなく単に景色が良さそうで気持ち良さそうだったからである。
フィレンツェは全て見るには1日では足りないくらい見所の多い町なのだが、今回は時間が足らず通過せざるを得なかった。
しかしどうしても映画で見た景色が見たくて移動途中に1泊することにした。そして朝の7時頃から町を散策し8時半の開館と同時に
約400段の階段を登り、念願のクーポラのテラスに辿り着いた。生憎の天気だったが早朝の少し霧に煙った中世の町並みもまた
乙なものだった。
件の映画ではバックにEnyaの曲がテーマソングのように流れていた。Enyaといえば私にはアイルランドの教会音楽というイメージ
があったので、きっとイタリア人にとっては清水寺で撮影した映画のバックに中国の宮廷音楽を流しているようなものなのではないか
と思いながらその映画を見ていた。クーポラのテラスで息子に写真撮影を頼んでいた韓国人学生が息子に「あの映画を見たか?」
と聞いていた。日本人でもあまり見ていないと思っていたが、よその国にもその映画を見た人がいるとは意外だった。
私たちがフィレンツェを離れる頃、空が晴れて良い天気になった。陽の光が当たるとドゥオモの壁はそれまでとは全く違った
とても鮮やかな色になった。良く見ると壁の赤や緑の色は塗ったのではなく石そのものの色だった。10時頃名残惜しみながら我々は
次の町へと向かいフィレンツェを出発した。
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