Cessna T-41
なにはともあれ、XCへ行くにはクラブの機体をどれでも良いからチェックアウトしなければならない。私は迷うことなくクラブの機体で一番数が多く操縦も慣れているセスナのT-41を選んだ。
T-41は軍用の練習機で見た目は全くC-172と同じだが、シートが二つしかなく燃料も車用のガソリンが使えたり、内装は全く飾り気がなく殺伐としている。しかも払い下げの古い機体ばかりで、
民間のクラブの機体と比べるとちょとみすぼらしかった。しかし、贅沢は言ってられない。目的を達成するためには安全に飛べる機体なら何でもよかった。
T-41の操縦はセスナとほとんど同じなので問題なかった。しかし、ノースアイランド基地(NASNI)の空港(NZY)の管制塔とのATCが民間の空港とはちょっと違うところがあり、
直ぐに覚えられずチェックアウトは一度で済まなかった。二度目のフライトでちょっとしたハプニングが起きた。その日の機体には、オンボロには似合わないGarminのGPSが装備されていた。
GPSにはNAVと無線の機能もついていて無線はそれ一本しか無かった。私達はエアワークを終えて海岸線を南下していた。La Jolla辺りでクラスBを通過する許可をもらおうと
SANにコンタクトすると、無線が雑音で聞こえにくくなった。SANのタワーが私に返事を求めてきたので返事をすると、また返事を求めてきた。私の英語が下手で通じていないのかと思ったが、
何度も聞き返してきたのでおかしいと思ったらどうやらこちらの声がタワーには届いていないようだった。
私達はすでにクラスBの境界まで来ていたが、クリアランスをもらえなかったので暫くその場で旋回していた。するとインストラクターは後部座席のバッグの中からハンディの航空無線機を取りだし、
ヘッドセットをはずしてSANのタワーと交信を試みた。そしてエンジンの騒音の中なんとかSANのタワーからクラスBのクリアランスをもらうことが出来、私達は再び海岸線を南下してポイントロマへ向かった。
NZYの近くへ来ると機体の無線も通じるようになり通常通りのフライトに戻った。結局なぜ無線が通じなくなったのかは分からずじまいだった。無線が通じなくなった場所はマウント・ソルダッドという
山の周辺で、実はマウント・ソルダッドの山頂には戦没者の慰霊碑がある。他にもここで無線が通じなくなった事のある人の話を聞いたことがあるので、どうやらここいらには何かアルらしい。
PPR Number
無事T-41のチェックアウトを済ましXCのフライトプランを考える段階になった。行きたい場所はミラマーだったが、NZYからミラマーではあまりに近すぎて面白くないし不審に思われてもいや
なので、最初の目的地はEDW(エドワーズ空軍基地)を選んだ。EDWなら距離もXCに丁度いいし、映画「ライトスタッフ」にも出てくる有名な場所なので目的地としては申し分なかった。
せっかくの長距離XCが一人ではさびしいし、基地の滑走路に着いた飛行機から外国人が一人で降りてきたらテロリストと思われて騒ぎになるのではないかと心配だったので、軍人のPaulに
一緒に行ってくれと頼んだのだが、結局彼はスケジュールが合わず私一人で行くことになった。
NINFCのメンバーはあまり他の基地へのフライトはしないらしく、だれも必要な手続きを知らなかった。そこで先ずはEDWのアエロクラブ(空軍のフライングクラブはアエロクラブという)
のマネージャーに連絡を取ってアドバイスを求めることにした。EDWのアエロクラブのウェブサイトからマネージャーDougの連絡先を調べて、emailで訪問したい旨を伝えると、早速Dougから
先ずはSOPをチェックするようにと返事が返ってきた。SOP(Standard Operating Procedures)とは会則と手順書を合わせたようなもので、クラブ運用の基本的な
ルールや情報が書かれているものである。特に変わった内容はなく問題はなさそうだったが、給油所の様子やクラブの設備に関する情報が無かったので、外部から訪問したばあいの燃料代の
支払い方や、食事を取る場所があるかなどをemailでDougに質問した。すると直ぐに返事が返ってきた。そこには質問の回答にもう一言付け加えられていた。
First and formost you MUST obtain a PPR number from base operations prior to coming to EDW.
Consult your Airport Facility Directory for EDW information on proceedures for obtaining
a PPR.
民間の機体が軍用の基地に着陸したりアクティブになっている軍用エアスペースを通るには許可が必要で、許可を得るとPPR(Prior Permission Required)
ナンバーという整理番号が与えられる。NINFCの機体は戦闘機や爆撃機などの軍用機ではなく民間機にあたるので、EDWへ行くにはPPRナンバーが必要となる。Dougの
アドバイス通りAFDのEDWの欄を見たが、Base Operationの情報はなにも載っていなかった。そこでDougに連絡先を訪ねると、基地の事務所の電話番号をひとつ教えてくれた。
その番号に電話すると女性のオペレータが出た。PPRナンバーを取る手続きをしたい旨を告げると係りの部署に電話は転送された。再びPPRナンバーが欲しい旨を告げると少し待たされてから
別の人が電話に出てきた。ようやく話が通じる相手が出てきて私はXCの計画を話しPPRナンバーをくれと言うと、「R-2515のエアスペース・ブリーフィングは読んだか?」と言われ、
「読んでいない」と言うと「PPRナンバーはエアスペース・ブリーフィングを読まないと与えられない、エアスペース・ブリーフィングを送るのでそれを読んでからまた連絡をするように。」と言われた。
電話を切って待っているとEmailでエアスペース・ブリーフィングのワードファイルが送られてきた。内容はEDWでのトラフィックパターン、アライバルプロシージャ、デパチャープロシージャ、
地上と上空の立入り禁止区域など、3ページほどのものだった。読み終えて再びEDWのBase Operationに電話して、先ほどの担当者を呼びだしてエアスペース・ブリーフィング
を読み終えた旨を告げた。すると彼は用意していた数字とアルファベットを組み合わせた6桁のPPRナンバーを読み上げてくれた。これで基地に着陸する許可も取れたし、アエロクラブに
立ち寄って給油や休憩が出来ることもわかったし、特殊な手続きはこれで一通り完了した。何日もかけてようやくEDWのPPRナンバーが取れた。最初EDWの帰りミラマーに寄ろうと
思っていたが、慣れない電話での手続きや相手が軍の基地というだけで緊張して疲れてしまい、今回はミラマーをあきらめてEDWだけにすることにした。
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