December 31, 2002
Day 7


GSP to BHM

 給油が終わり準備が整い出発。既に夜の11時を過ぎており休憩中にタワーも閉まってしまっていた。タワーが閉まった 後はクラスGのオペレーションとなるので、長さ11,000ftの国際空港の滑走路のランプを自分でマイクをクリックして点灯させての 出発となった。大型ジェット旅客機が横付けするボーディングブリッジがいくつも並ぶ国際空港のターミナルを横目に見ながら クラスGと同じようにブラインドトークをするのは、なにか間違いをしているようでとても変な感じだった。


深夜のエプロンで主を待つ愛機

真っ暗でHold Short Lineしか見えない

Position and hold、向こうにVASIが見える

マイクをクリックしてランウェイライト点灯

いくつも並ぶボーディングブリッジ

国際空港の立派なターミナル

 GSPを出発してまずはODF-VORへ向かう。そして州境を越えてジョージア州に入りアトランタから北側にそれてRMO-VORへ。 そこから先はアラバマ州バーミンガムより先はテキサス州ダラスまで24時間営業の良い空港が無かったので、今夜はバーミンガム 国際空港(BHM)に降りる事にした。高度8,500ftで巡航していると、翼端周辺に綺麗なスパンコールを散りばめたような輝きが 見えるようになった。何かと思ったらそれはストロボライトに照らされた雨だった。次第に天気が悪くなっていた事に気がつかず 薄い雲の中を飛んでしまっていたようだ。視界には影響が無かったがアイシングを避けるために高度を下げる事にした。 雲は次第に厚く低くなり、雲の底辺を掠めるように飛ばざるを得なくなった。


水平線の上は雲

計器のライトは暗目で赤い室内灯を使う

翼端周辺にスパンコールのように輝く雨

地面と雲に挟まれとても圧迫感がある

なんとかBHMに辿り着きアプローチ

Rwy18 BHM Short final

 雲の中に入らないように8,500ftだった巡航高度を5,500ftに落とし、暫くしてさらに高度を下げていった。 そしてBHMのアプローチにコンタクトした時には3,000ftを保つのがやっとだった。遠くにバーミンガムの町の明かりが見えていたが、 時折雲のベースの影に隠れて見えなくなると慌てて高度を下げる始末だった。そして地面と雲の底辺に挟まれたわずかな隙間に 見える街の灯りを頼りに、2,500ft位の高度でBHMにアプローチ。空港周辺は風が強くとてもガスティーだった。しかし、 10,000ft級の滑走路を活用して、80Ktsくらいのスピードを保ちながらゆっくりとタッチダウン。無事着陸。FBOの前に機体を 止めると待っていたかのように土砂降りの雨が降り出した。間一髪だった。


ゆっくりとタッチダウン

寝静まったBHMのターミナル

灯りが消えていて閉店かと思ったFBO

 FBOのカウンターでレンタカーを頼むと係りが車のキーホルダーが沢山入った箱を持ってきて、どんな車がいいかと聞くので スタンダードかフルサイズが良いというと幾つか候補を挙げてきた。その中から適当なのを選ぶと駐車場の車の位置を教えてくれた。 車をFBOの前に移動して荷物を積み込みホテルへと向かった。午前3時過ぎ、深夜というより早朝と言ってもいい時間だった。ホテルを 選んでいる時間もなく、FBOから一番近くにあった空港沿いのRamada Innに宿を取った。ちょっと暗い雰囲気だったが選り好みしている 余裕はなく、チェックインして部屋に入るなり直ぐに寝た。

Flight Data
Wypnt Local UTC Duration
(Min)
Distance
(NM)
GS
(Kts)
HOBBS
GSP 00:55E 05:55       5518.4
ODF 01:38E 06:38 43 54 75  
RMG 02:42E 07:42 64 96 90  
GAD 02:11C 08:11 29 50 103  
BHM 02:45C 08:45 34 41 72 5521.4
Total   2:50 170 241 85 3.0
Chart


Birmingham, AL

 朝起きてみると外は雨が降っていた。バーミンガムはアラバマ州の州都でダウンタウンにはビルが幾つか建っていた。とても 離陸できる天気ではないので、取り合えず車でバーミンガムの町を一回りする事にした。ホテルを出て直ぐ、空港の脇にSR-71が 置いてあった。どうやら博物館の展示らしく他にもジェット戦闘機が何機も雨ざらしになっていた。年末休みということもあって、 ダウンタウンは静まり返っていた。結局何も観光するところを見つけることが出来ず、FBOに戻って天気待ちをする事にした。


SR-71 Black Bird

その他往年のジェット戦闘機たち

FBO裏の車用パーキング

 FBOに戻って車を返却し、カウンターで給油をお願いすると早速フライトプランニングルームで気象情報をチェック。 気象情報の端末によればテキサスからアラバマにかけて低気圧があり、北東に向かってゆっくりと移動していた。出発する時は 北東に移動する低気圧を追いかけるような形で飛びつづけていたが、帰りは新たにメキシコ湾で発生した低気圧に向かって 飛ぶかたちになっていた。そしてついにアラバマで低気圧の中心近くに当たってしまい、南のほうにはサンダーストームも 発生していた。バーミンガム辺りは空一面雲が張り詰めていたが、雨と風はそれほど強くは無かった。しかしどう考えても飛べるような コンディションではなく、FBOには私以外にも足止めを食っている人が天気待ちをしていた。

Birmingham Int'l Airport; Mercury Air Center

 今回バーミンガム国際空港では全国ネットで展開しているマーキュリー・エアサービスを利用した。SignatureやMillionair に比べると少し庶民的ではあるが、何処の空港でも清潔で充実した設備で安心してサービスが受けられる。ここのFBOもホールや ラウンジのソファーやテーブルなどの調度品もそれなりの物が置いてあり、ゆっくりと寛ぐことが出来た。キッチンには電子レンジ や冷蔵庫の他にお決まりのポップコーンマシーンも置いてあり、勿論無料利用できる。私たちはここでソファーに座って窓の外の 天気を見ながらしばらく時間をつぶすことにした。




マーキュリー・エアセンターのカウンター

カウンター前のゆったりとしたソファー

ホールにはコンシェルジェのデスクも

マーキュリーのエンジ色で統一されたキッチン

パイロットラウンジにはリクライニングソファー

充実した設備のフライトプランニングルーム



BHM to STF


 フライトプランニングルームにある気象情報のターミナルで天気を調べてみると、ルイジアナの南のメキシコ湾沖合い辺りに 低気圧の中心があり、そこから北に向かって一面に平たく薄い雲が広がっているようだった。低気圧はこちらに向かって移動しており TAF(航空用天気予報)によれば今日よりも明日の方が天気が悪そうだった。昼過ぎから2時間ちかく悩んだ末、少しでも先へ進む ために飛びたつ事にした。


 プリフライトを終えて出発する時にATISを調べると wind 110 at 18, visiblity 10SM, rain, clouds 900 broken, altimeter 2966, temperature 14 celcius, dew point 13 celcius となっていた。 雲が900ftの高さでブロークンではIFRコンディションなのでVFRでは飛び立てない。最低でも1,000ftでなければVFR (有視界飛行)は出来ない。プリフライトをしていたついさっきまでVFRだったのにいつの間にか雲が下がってしまった。 そこで私はSpecial VFRをリクエストする事にした。行き先は天気次第でどうなるか分からなかったので特定せず、 request special VFR to Southwestとクリアランスデリバリーに告げクリアランスをもらって出発



旧タワーの下にはBirminghamの文字

Taking off Rwy18 BHM

タワーとターミナルを見ながら離陸

離陸すると直ぐ目ダウンタウンのビルが見える

ビルが立ち並ぶアラバマの州都バーミンガム

Tuscaloosa空港上空を無事通過

 BHMクラスCの中は2,500ft以下で飛ぶように指示されていたが、クラスCの外へ出るとシーリング(雲の底辺)が6,000ft前後 だったので、巡航高度4,500ftで取り敢えずMeridian目指して南西に向かって飛んだ。出発前に調べたMeridianのMETARは FEW 008 SCT 035 OVC 120だったので、途中も大丈夫だろうと思っていた。BHMから40NMほどのTuscaloosa(TCL)の辺りまでは順調だった。 TCLのATISを聞くと visiblity 10SM, altimeter 2962, few clouds 012, broken 040, Overcast 050 だった。TCLまではシーリング と下の雲の層の間に遠くまで続く空間が見えていたのだが、TCLを過ぎると雲が次第に増えてきて、上も下も前も雲しか見えなく なってきた。それでも前に進んでいくと段々シーリングが下がってきた。


TCLを過ぎると雲が増えてきた

時折雲に入りそうになり前が見えなくなる

下の雲も厚くなり始め空間が次第に狭まる

雲間にAVI発見

IFR着陸可能なGTRの綺麗な滑走路

Stalkvilleの町に隣接するSTF

 少しでも隙間があれば進んでいこうと思っていたが、ついに隙間が見えなくなり方向転換を余儀なくされた。周りを見ると 北西の方向に雲の無い空間があったので、急遽行き先をGolden Triangle Regional(GTR)に変更。NAVをIGBに合わせてトラッキング を開始。Meridian 1 East MOAを横切りながらアラバマ州からミシシッピ州へ入った。GTRの近くまで来てAWOSを聞くと overcast 4,500ft, few clouds 2,500ftでギリギリという感じだった。GTRを通過してそのままGWOかGLHまで行ければと思い雲の間をすり 抜けながら高速道路沿いに飛び続けた。シーリングギリギリのところを飛んでいるといつの間にか高度が2,500ftまで下がっていた。 これより低く飛ぶのは危険すぎる。そして前方には雲の無い空間が見えなくなってしまった。


雲と地面の間に見える空間目指して飛ぶ

明るい所まで行けば雲が晴れると信じたが

周囲を雲に囲まれる

再び時折前が見えなくなり高度を落とす

ついに地平線が見えなくなる

このあと雲に突入してしまい前進を諦める

 もう少し飛べばGWOまで行けると思っていたら、いきなり雲の中に入ってしまい何も見えなくなってしまった。私は訓練の時に インストラクターが「雲の中に入った時はスタンダードレートターンで1分間飛んで元来た方向へ戻れば雲から出られる」と教えて くれたのを思い出した。そしてその通りターンコーディネーターを見てスタンダードレートターンの体勢を作ると時計を見た。 勿論DG(方向を示す計器)も確認しながらもと来た方向に向いたところでターンをやめて真っ直ぐ飛んだ。すると直ぐに雲から 脱出することが出来た。覚悟していたのでパニックにならなかったとはいえ、日も暮れかかった薄暗い雲の中に入り込んでしまった 瞬間とてつもない恐怖を感じた。私はこれ以上西へ進むことを諦め通過してきた町に降りる事にした。GTRは空港の設備は良さそう だったが周辺の町が小さそうだったので、一番近くのStalkvilleの空港に降りる事にした。

 雲の隙間に見えた滑走路目指して一直線、滑走路の上空を横切るとウィンソックは滑走路に対して真横を向いていた。無線で UNICOMを呼んだが返事が無かったので、明日は元旦なので何処も休みだろうから今日中に給油できないとまずいので一旦隣の空港へ 向かいSTFを離れかかったが、日も暮れかかっているし少しでも西に居たかったし、上空からStalkvilleの町なみを見てここなら レストランやホテルもありそうだったので結局STFに引き返した。


もう少しで見えなくなりそうなSTF

ダウンウィンドから空港の様子を観察

小雨の中、無事着陸

FBOの前に駐機

閉まっていたドアを開けてくれたFBO

日が暮れると雨は土砂降りになった

 Rwy36で着陸、唯一のFBOの前に駐機してFBOの事務所へ行くと、オーナーらしき家族がFBOを閉店して帰宅する直前だった。 私が最初にUNICOMを呼んだのを聞いてFBOを開けていたが、通過したので帰ろうとしたところだったらしい。事情を話して給油を お願いすると快く引き受けてくれた。そしてオーナーはハンガーの横のパイロットラウンジを開けてくれて、気象端末で近所の 空港のTAFまで取ってくれた。ハンガーにはセネカ、チェロキー、C172が止めてあり、全て彼の所有でここでパイロットスクールを やっているとの事だった。息子もCFIを目指しているんだと言いながら彼の名前の横にコマーシャルパイロットと書かれた名刺をくれた。 レンタカーの返し方を説明し終わるとFBOの家族は戸締りをして帰っていった。田舎らしくとても親切で気のいい人たちで、アットホーム な雰囲気の心和むFBOだった。飛行機に車を横付けして荷物を積んでいると着陸する頃から降っていた雨が大粒になり音を立てて 降り出した。またしても間一髪だった。



Flight Data
Wypnt Local UTC Duration
(Min)
Distance
(NM)
GS
(Kts)
HOBBS
BHM 15:00C 21:00       5521.4
TCL 15:25C 21:25 25 45 108  
IGB 15:53C 21:53 28 50 107  
GTR 15:56C 21:56 3 4 80  
STF 16:16C 22:16 20 27 81 5523.0
Total   1:16 76 126 99 1.6
Chart


Stalkville, MS



 今日は12月31日、予定ではニューオリンズのホテルでTVジャパンの紅白歌合戦を見ながら年を越すはずだった。しかし、悪天候 のせいでミシシッピの片田舎Stalkvilleで新年を迎える事になった。紅白どころかおそらく我々以外に日本人はいないであろう この田舎町にまさか宿泊することになるとは夢にも思わなかった。しかも大晦日に・・・。町に行くと全国チェーンのホテルに 空室があったので宿を取った。チェックインの際にカウンターの女の子に年越しのカウントダウンのイベントは何処でやるのか と聞くと、何それ?という感じで呆気に取られていた。ここに行けばやってるんじゃないかと近所の店のチラシをくれたがちょっと違う感じだった。他にお薦めのレストランを聞いて車で出かけた。ダウンタウンの目抜き通りは100メートルも 無いくらい小さくどの店も閉まっていた。町をぐるぐると回って漸くメキシカンフードのレストランを見つけそこで夕食を取る事にした。

 

Day 7



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