STF; George M. Bryan Field Airport, Stalkville, Mississippi まさか元旦をここで迎えるとは思わなかったSTF唯一のFBOのStalkville Air Service Inc.。家族で経営しておりハンガーの中には 単発、双発、など何機かの機体がありCFIのマスターがパイロットスクールもやっている。ハンガーの奥のパイロットラウンジ にはTAFを取れるPCが置いてあり、横のオフィスは小さいがレンタカーも貸してくれるしチャートも売っている。 2003年元旦、疲れが溜まっていたにもかかわらず、天気が心配で日の出前から目が覚めた。何度も何度もカーテンを少し だけめくって窓の外を見るが、結局10時を過ぎても天気は曇りのままだった。携帯電話で隣の町のGoldenTriangleAirport(GTR) のASOSを聞いてみるとOVC005(500ftの高さ一面に雲)だった。西へ50NMほど行ったところにあるGLHではOVC012(1,200ftの高さ に一面の雲)だった。STFはノンタワーなので、飛び立ってしまってGLHの近くまで行けばスペシャルVFR着陸をリクエストする事も 出来る。万が一に備えて持ってきたノートPCをインターネットに繋いで衛星写真とレーダーの画像を見てみると、STF周辺の雲の層は 薄く、近くにCB(積乱雲)は無かった。そしてミシシッピ川を越えてルイジアナの西部から西は快晴だった。 意を決して空港へ向かい出発の準備を始める。元旦なのでFBOは閉まっている。天気も悪いので誰も飛んでいないだろう 思っていたら、キングエアーがランウェイエンド近くのミシシッピ州立大学のハンガーから出てきて離陸しようとしてたので しばらく様子を見ることにした。無線を聞いているとそのキングエアはどうやらミシシッピ大学の訓練機のようだった。 暫くして出発したキングエアは離陸するやいなやあっという間に雲の中へ消えていった。私はVFRしか出来ないので、離陸したら 取り敢えず雲ギリギリの高さで西へ向かって雲が高くなる事を期待する事にした。 チャートを見たところ周辺には300ft以上の高さの障害物は無いはずだった。しかし、500ft足らずで雲の下ギリギリを飛行 するのが危険である事は明らかだった。私は自分に嘘をついてた。雲の下を飛ぶんだと言い聞かせながら心の奥では離陸後に 雲を突き抜けて上空に出てルイジアナまで雲海の上を飛ぶつもりでいた。最悪雲が厚くて上に抜けられなかった場合はそのまま 雲の中でVORをトラックしてGLH近辺まで行って1,000ftまで降りれば雲の下に出れるという算段だった。さもなければここで数日 足止めを食うことになる。 キングエアが離陸して数分後、自分も離陸しようとその意思を無線で発信し傍受をするとセスナが一機「空港から半マイル 西700ft・・・」と言っているのが聞こえた。STFに着陸しようとしているのかも知れないので暫く様子を見ることにした。しかし 3分経ってもなにも反応が無かったので滑走をへ向かい離陸を開始。 南向きに離陸しダウンウィンドに乗って暫く雲の下を飛んでいた。雲すれすれを飛びながら地面がすぐ近くに見えるのは 精神的にとても圧迫感があり少しずつ高度を上げていた。段々薄い雲の中に入り始め視界が悪くなって来た。暫く北へ飛べば 東西に走っている高速道路が見えるはずだった。高速が見えたらそれに沿って西へ飛ぶ予定だったが、いつまで経っても目印の 高速道路が見えてこない。ふとNAVを見ると次のVORへのVウェイがもうすぐそこまで迫っていた。私は高速道路に沿って飛ぶ 事を諦め、雲の上に出てVウェイをトラックする事にし、意を決して操縦桿を引き雲中へ入っていった。 雲の中に入った瞬間何も見えなくなり、窓の外はグレー一色となった。ウィンドシールドにたたきつけられた水滴が横や 上に走って行くのが見えるだけだった。10秒か20秒もすれば雲の上に抜けるだろうと思っていたのでさほど恐怖心は無かった。 しかし雲は思ったより厚く1分経っても上に出れなかった。外気温は6度近くあったので翼が凍る心配はしなかったが、キャブレター がアイシングを起こしてはいけないと思いキャブヒートをオンにしていた。そのせいかフルスロットルなのになかなかエンジンの パワーが出ていないような気がした。高度計を見るとやはりなかなか高度が上がっていない。いつまで経っても雲の上に出れないので 私は焦りだした。思い切ってキャブヒートをオフすると漸く高度が上がり始めた。早く上に上がろうと機首を上げた姿勢をしてフル スロットルで飛んでいたのに右のラダーをしっかり踏んでいなかったため、気がつくと進行方向がかなり左にズレてしまっていた。 しかし、ちょうどVウェイのあたりまで来ていたので、そのままVウェイに方向を合わせてトラッキングを始めた。 暫くするとグレーだった窓の外が白くなり、それが段々光り始めついに青い空が見え始めた。結局雲の底は500ftで天辺は2,600ft だった。上空は快晴で360度見渡す限り地平線まで真っ白な雲海である。予想通り積乱雲のように背の高い雲は無く、一面に平たい 雲が広がっていた。地面は全く見えないが取り敢えず目が見えると言うのがなんともありがたかった。これで安全というわけでは なかったが、視界が開け上空の天候は安定していたのひとまずほっとした。 VウェイはIFRトラフィックが通る可能性が高いと考え、IFRでない自分は邪魔にならないようわざとVウェイから10〜15マイルほど 離れたところを並行に飛ぶことにした。あたり一面IFRコンディションなのでVFRフライトフォロイングはリクエスト出来ないので、 その地域のセンターやアプローチの無線を聞き、空港の近くではタワーの無線を聞きながら周囲のトラフィックに気をつけ飛ぶ事にした。 6,500ftで西に向かいミシシッピー川の上を通り過ぎて暫くすると地平線の辺りの雲の様子が変わってきた。近づくつれて 切れ目が見えてきた。ミシシッピー川から西へ20マイルの辺りで南北に線を引いたように綺麗に雲が消えて無くなっていた。 予定とおりとは言え地上が見えるようになった時はとても嬉しく思わず歓声を上げてしまった。 MLUのTRSAを避けるように6,500ftのまま暫く西へ向かって飛び続けた。地上が見えるようになり、それまでの緊張が解けてどっと 疲れが出たので、近くのSHVで一休みすることにした。 SHVは不慣れだったのでアプローチにコンタクトして誘導してもらう事にした。途中Barksdale空軍基地の上空を通過、エプロンには B52爆撃機がおもちゃの様に沢山並んでいた。Shreveportには定期便が飛ぶSHVとジェネアビ用のDTSの二つの空港がある。アプローチから 行き先はDTSか?と聞かれたが、SHVの方がFBOが充実していそうだったのでSHVと告げた。漸くSHVに到着。地面に降り立った時、 私は無地到着できた事を心から喜んだ。 SHV; Shreveport Regional Airport, Shreveport, Louisiana SHVのFBO、TAC Air。グレードは全国ネットのMercuryと同じくらい。フライトプランニングルームで地図を見ていると西から セネカで飛んできた老夫婦が入ってきた。彼らはサンディエゴを訪れた帰りでアラバマに行く途中だったので、参考までに私が 飛んで来たルートの気象状況を教えてあげた。彼はIFRの免許は持っているが、計器を新しく装着したばかりで信頼性が無いので、 出来れば計器飛行は避けたいと言っていた。 SHVを離陸してMAFへ向かった。ダラスの南を横切りWACOの北を過ぎた頃に日没となった。高度を6,500ftに上げてDMEを見ると それまで96ノットだったGSが88ノットになってしまった。出掛けに取ったFD(上空の風の情報)を見ると、3,000ftまでは向かい風 20ノットだが6,000ftでは向かい風30ノットだった。出来るだけ早く飛びたかったので高度を下げ4,500ftで飛ぶ事にした。 それでも思ったより時間がかかってしまい、燃料計が示す燃料の残量ではとても次の目的地のMAFまで行けそうに無かったので、 行きがけに給油に立ち寄ったABIに降りる事にした。 ABIに近づきATISを聞くとなんとガスト35と聞こえてきた。しかし、降りない訳に行かないので、速めのスピードでフラップ無し で着陸することにした。ABIはジェットも降りる8,000ft級の滑走路なのであまり心配はしていなかったが、夜の着陸で地面が良く見えず 早めにフレアしてしまったのか、かなり高いところから失速して落ちるように着陸してしまった。バァーン!と音をたてとても強い 衝撃を感じたがなんとか着陸できた。タクシーウェイに出ると機体が右に傾いていた。どうやら着陸の衝撃で右のサスペンション が縮んだまま戻らなくなってしまったようだった。以前同じような事があり、時間が経ったら元に戻っていたのでまた直るだろう と心配はしなかった。管制塔がウィンドシアーを感じたかどうか聞いてきたので、着陸前に突然地面に叩き付けられたと伝えた。 ABI; Abilene Regional Airport, Abilene, Texas ABIに着陸後FBOに向かってタクシーしている時に、どんなFBOだったか思い出そうとしたが、今回のXCではあまりに多くの FBOに寄ったので、ここのFBOがどんな所だったか思い出すことが出来なかった。駐機しながらマーシャラーを見て、日本語を話す マーシャラーがいた事を思い出した。給油の間FBOの2階のラウンジへ行っておにぎりを食べて腹ごしらえをしていると下から誰か あがって来た。誰かと思えばその日本語を話すマーシャラーだった。彼は挨拶をして日本語交じりで少し話すと立ち去った。
給油が終わり機体へ戻ると思ったとおりサスペンションは元に戻っていた。プリフライトを終えて早速出発。強風でラダーが 勝手に動き出すのを抑えながらなんとか滑走路へ向かい離陸。かなり揺れたがなんとか離陸することが出来た。 次の目的地ELPは標高4,000ft弱と少し高めだ。雲も無く視界も良好とは言え夜間飛行なので安全を考えいつもより高めの8,500ft で巡航した。チャートを見ながら常に飛行ルート周辺の空港を探し、ビーコンを見つけるとその空港のフライトガイドのページを 開いて、いつでも着陸出来るように準備をした。ELPまで燃料が持つかどうか心配だったが、少し高めの高度を取ったからか前の 行程よりも燃費が良くなった。燃料が足りなくなったら行き先をカールスバッドに変更するつもりだった。カールスバッドを過ぎると 暫く砂漠が続く。地上に街の灯が見えなくなり辺りに空港も無いので少し心細かったが、燃料は持ちそうだったので予定通りELP を目指して飛び続けた。 エルパソの街はあまり大きくは無いが、街の灯が見える前から地平線の上がうっすらと光っていたので、どこに街があるのか 直ぐに分かった。空港に近づくとメキシコに近い山肌に星の形をしたイルミネーションが見えた。川を挟んで反対側はメキシコだ。 街の灯も国境で仕切られ、メキシコ川は白い明かりがポツポツと光っていたが、アメリカ側は辺り一面ナトリウムランプの オレンジ色の光りの海だった。 ELP; Elpaso Inter'l Airport, Elpaso, Texas FBOのスタッフは土地柄メキシカンが多かった。カウンターの係りが黒人だったが彼以外は全てメキシカンだった。入り口の 椅子に座って休んでいると、掃除をしていたお兄さんに奥にあるパイロットラウンジを薦められ、行ってみるとリクライニング できるソファーがあったのでそれに座って一休みした。
Day 8 |
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Mar 10, 2007